小説の茨城  茨城をテーマまたは舞台にした小説集です。小説
 の舞台は、霊峰筑波、徳川光圀公の本拠であった
 水戸、東国の武神を祭った大社を持つ鹿嶋など。
 『 佐原祇園祭り殺人事件 』      北 川  吏
 
『小説茨城』は企業の広告によって運営されております。トップページ下の各店舗にも是非お立ち寄りください。

「俺、飼ってる犬、老衰で死にそうなんだ。」
「あ、そう。」
「海野好夫さん、あなただったら、焼いて骨にして、海からばらまいたら?」
「そんなことできるのか? 森中良子さん?」
「ええ、今、はやってるの。百万も二百万もかけて、人を呼んで式を挙げるなんてナンセンスよ。これからは、人が死んでも、十万円以内ですむお葬式ってはやってんだから。」
「そうか、じゃぁ早速、獣医に言って、老衰で亡くなるように注射をしてもらおう。」
「うん、それがいいわ。」
「だけど、俺、獣医に頼むんじゃなくて、自分で眠らせてやりたいな。」

海野好夫は、注射を打って、犬を眠りにつかせた。そして、薬があと一回分残っていた。

そして、次の日、ここ佐原では祇園祭りだった。
山車が出て、夜空を赤く染めるように輝く。山車の中で、笛太鼓のお囃子が続いた。同じ町内に山車が二台集まって、一台は電気が消えて、一台がこうこうと闇の中でその姿を浮かび上がらせていて、お囃子の最中だった。
上ではひょっとこが踊りを踊っている。しばらくお祭りの最中で、若い女性が、「お祭り、お祭り、お祭り大好きだ」と、はやしながら踊っている。

電気が消えた。
次は、反対側の山車の灯りがついた。こうこうと明かりを照らす。そこで、今度はキツネの面をかぶった男たちが踊り始めた。女の子が「お祭り!お祭り!」と言って、はやし立てた。
そうしているうちに電気が消えた。
警察がどかどかと、山田スポーツ店に入って行った。
殺しだ。若い女性がトイレから出てこなかった。山田スポーツ店の人が入ると、鍵が閉まっていたので、体当たりして開けた。そうすると、若い女性が口から血を流して死んでいたのだった。
大文字太郎が来ていて、
「これは、青酸系の毒薬ですよ、この顔色を見れば私には分かる。」
「ほお。」と、警察署の警部が言う。
よその警察署の警部が来ていて、「その通りだ。」と言う。
「おそらく、怨恨に関する殺しですよ。この女性に見覚えはありませんか、みなさん。」と言って、みんなに聞いてみた。
「あ、俺、知っているよ、この人。あの、大田原という呉服屋の旦那の妾だよ。」
「それで付き合っていた人はいるのかな?」
「そりゃいるよ。寿司屋の見習いの板前がいて、あいつと付き合っていたな。そういえば今日、ひょっとこの仮面かぶって踊っていたのがそうじゃないのか?」
「そうそう、そうだよ。しかし、いつの間にかいなくなっていたんじゃないのか?」
「そうだ、俺が、トイレに行くとかって聞いたけど、山田スポーツ店に入って行ったと思うけど。」
「そうか、だけど、そういう姿を見かけてはいないな。」
「分かりました。」と、大文字太郎が言う。「こっちのひょっとこ面をかぶった男が彼女に薬品の注射を打った。そして、今度はキツネの面をかぶって、反対側の山車へ登って、踊った。だから、殺しがあったということは、みんな、わかんないわけだ。」
「ああ、そうだったんですか。」、みんなうなずいた。

「彼女を殺した海野好夫の動機だが、大田原と付き合っていることはもちろんだが、自分の方に注目を浴びせるように望んだが、どうもうまくいかなかった、だから、思い切って殺害しようと思ったんだ。」
「この、山田スポーツに入るということは、ある程度予想されていたことだ。ここで逢引することになっていた。そして、海野好夫は、犬を殺す時に使った毒薬をひとり分持っていて、彼女に栄養剤だからと言って注射した。それが殺害の方法だ。」
「そうか。」
みんな、海野好夫を憐れむような、なんとも言いようのない感じで、批判したり、気の毒がったりした。
 
2002 (C) Copyright by Office21. All rights reserved.