小説の茨城  茨城をテーマまたは舞台にした小説集です。小説
 の舞台は、霊峰筑波、徳川光圀公の本拠であった
 水戸、東国の武神を祭った大社を持つ鹿嶋など。
 『 黒 船 』        匿名ゲスト
 
茨城県の那珂湊の沖合に黒船が現れた。みんな珍しがって怖いどころではない。黒船見学ツアー
なるものを仕立てて、黒船の近くまで行って、近くで、異人を近くで眺めたいという者がたくさ
んいて現れた。近くで見ると、異人は血を飲んでいるという。恐らくワインのことなのだろうが、
あの背丈の高く、髪の毛ももじゃもじゃして、まるで赤鬼のような異人を見て、楽しんだりして
大騒ぎだった。
 黒船に、夜一艘の船が向かっていった。長田松陰の乗った船だった。どうやら近くまで来たよ
うだった。異人は長田を見つけた。「カモン」と指を差して、指を打って、長田に上がるように
と勧めた。この黒船は長さが40メートルぐらいで、黒くぬった輪が力強く回るたびに執拗に波を
立てていた。大砲が4門、両方向に動くようになっている。長田は、息絶え絶えにも豪華VIP
ルームに通された。壁に取り付けてあるソファーがふわふわする。ツートンカラーでそろえられ
ていた。
「ああ、キャプテン博士、ここの船の船長ですね。私は異国へ行って、新しい優れた学問を身に
つけたいのです。どうぞこのような私たちをあなたの国へお連れください」
「いや、それは駄目なんだ。幕府と私の国とで書面を交わしている。人を乗せてわが国へ連れて
行くことは禁止されている」
「でも、これがばれれば私は切腹ものです。そこを何とか」
「いやいや、そなたはここで打開策を考えたら良かろう」
「ああ、キャプテン博士、陸では、浜辺では、楼閣が建って、遊郭が建って、男を楽しませる女
性がたくさんいますよ。自由恋愛ですから、どこを歩いても構わないんです。それも全部わが藩
で賄いますからご心配なくと言っていましたよ。私はそんな権限ないが、私の上司がそう言った
んです。そういう計らいをしている日本です。私を連れて異国へ旅立ってください」
「いや、ならぬ」
「それでは私は帰ります。そして浜辺で切腹します。おい、山岡、介錯頼むぞ」
「あなた方、本当に死ぬつもりか。」
「もちろんです」
「じゃあ船員たちと一緒に陸へ出て、思いを遂げれば良かろう」
「はい。でも私は一番後にします」
「ああ、いいとも。」
 みんな陸に下りてしまって、長田はこの黒船の中で一人になってしまった。すると長田松陰は、
船の操縦法を知っていたらしく、沖へ沖へと船を走らせていった。「おーい、何をするんだ」、
キャプテン博士どは大声で呼び止めた。長田松陰の腕はさえて、沖へ沖へと出ていった。そして、
ボカーンという音がした。船は木っ端みじんに砕けてしまった。ああ、長田はいかに。
 大丈夫である。長田は水泳の名手で、みんなが集まっているほうと反対の方へと泳いでいって
陸へ上がった。これで、長田松陰の外国遊学は達成されなかったが、日本にはこういう暴れん坊
がいるということを知らせただけでもいいと長田松陰は思った。
 
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