小説の茨城  茨城をテーマまたは舞台にした小説集です。小説
 の舞台は、霊峰筑波、徳川光圀公の本拠であった
 水戸、東国の武神を祭った大社を持つ鹿嶋など。
 江戸黄門 ー紀州家の野望1ー  北川 吏
 
 徳川頼房は家老と一緒に、常陸太田の瑞竜山にいた。ここは水戸 徳川家代々の墓として頼房
が造らせたので、もう自分の入る墓も決めてある。巨大な土饅頭の上に芝布のような草を生えら
せ、周りを木柵で取り囲み、一般の者はむやみに入らせないようにしていた。
 「のう、大久保、わしは母上お万の方の十一子で、兄は紀州の頼宣殿だ。わしはこうして常陸
の国にいるが、もうすぐ江戸へ帰らなければならぬ」
 「はは、さょうで。しかし、頼房様が造られたこのお墓は未来永劫に徳川の威光を世に 放つ
でしょう。
「わしは水戸藩主だが、水戸にいることは出来ない。江戸の水戸藩邸で、仕事はするわけだが」
「ははっ。それで殿のことを、江戸黄門と呼ぶ江戸ッ子たちが多いようです。」
「なるほど、江戸黄門か。それはいい。わしは天下の副将軍だった。それで隠居して、江戸黄門
になったわけか。なんだか、わしの第三子光圀が水戸黄門と呼ばれそうな気がしてならぬ。」
「ははっ。さようで」
「わしは、イノシシを止めた事がある。眉間を撃っても死なぬから鉄砲の台座で、なぐりつけて
やった。それで死んだが、鉄砲はグニャリと曲がり、つかいものにはならなくなった。」
「ははっ。それは大変な怪力でございまするな。武勇にすぐれていらっしゃる。」
「わしは相撲も好きでな、よく水戸藩邸で力士を呼んで相撲をとらせる事にしている。」「はは
っ。さょうで」「水戸は、水はけが悪くてな。水の需要と供給がつりあわぬ。それで、わしは水
道事業に着手し、着々と工事は進んでおる。」
「御意にございまる」
「それと那珂川で木を切り筏にして、はこんでいる」
そのころ紀州の和歌山城の天主閣では、家康の十男、頼房が、牧野長虎と密談していた。「ここ
に、幕府を転覆させるための血判書が入っている。これをそちが、知行を減らされたり幕府をよ
く思っていない者達に、血判させてくれ」
「ははっ」
それを天井で頼房の忍びが一部始終聞いていた。
和歌山城の広大さはすぱらしく、大阪城もかくやと思うほどである。
 城につづく道はでこぼこで、馬が駆け上がるときは、危なく大変だった。それでも天守閣から
は紀ノ川や淡路島が一望できる。紀ノ川は水がきらきらと輝いており、マリモのような淡路島が、
ポッカリかんでいるのが夢のようである。
 それから一ヶ月後、江戸黄門は小天狗を連れ伊勢参りに来ていた。まず内宮から入る。
 頑丈な木の橋を渡ろうとすると、下に錦鯉が泳いでいたてりして、風流な感じだ。そして橋を
渡ると日本庭園がぱっと開けた。五葉の松や奇岩がうつくしい。
南国の陽光を浴び、まるで夢のうに輝く美しさで見る者の心を打った。江戸黄門と小天狗は二十
年に一度取り壊し新たに建てるという殿中をめぐり水戸藩の豊年といやさかを祈った。
 それから二十日後、江戸黄門たちが箱根に着いた。江戸黄門の脚が健脚とは言え、峠越えはき
つい。
 小天狗が気ずかい
「もう日が暮れます。宿場で体を休めましょう」と心配そうに声えを出した。
このままでは体全体が疲労してしまう。
 
   
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