小説の茨城  茨城をテーマまたは舞台にした小説集です。小説
 の舞台は、霊峰筑波、徳川光圀公の本拠であった
 水戸、東国の武神を祭った大社を持つ鹿嶋など。
2004年2月号
 
 矢 作 幸  『復讐』 −通り魔への一撃− サンプル小説からの続編1
『復讐』 −通り魔への一撃−     サンプル小説からの続編

 「人間の営みは喜びの方が大きいが、鮭などは雌の産んだ卵の上に精子をかけるだけで、接す
る喜びなんてないだろうね」
 「そうなの、じゃあ、つまらない」
 「恵は通り魔にオッパイ握られて息がつまったといったね。女の急所は乳だが、男の急所はタ
マなんだ。今度通り魔につかまったら膝で思い切り玉を蹴り上げるといい。男はのびてしまうは
ずだ」
 
 どんより曇った空。星も月も見えずただ暗いだけ、襲われた夜もこのような空だったと恵は思
った。
 街が切れて暗さが深くなった。足音はしないが静が後から見守ってくれていることを思い、心
強さを感じた。
 小さな横道が左から合流する角に看板が立っていた。その看板の蔭で人が動いたのを恵は見た。
 「来る!」
 黒い人影は踊るように飛び出し、恵の前でナイフを開いた。
 「待ってたぜ、お嬢さん。可愛がって切り刻んでやるからな」
 それは通り魔でなく、変質者だった。しかし危険には変わりない。
恵は身構えた。斉藤静がもう近づいて見ているに違いない。
 「シャツ!」とナイフが目の前の空気を切った。第一撃のおどしだった。
恵は身をひらいて避けると同時に手刀で腕を打った。
 「カラン」と音がしてナイフが落ちた。
 「おお痛てえ、この………」つかみかかる影の股に恵の膝が入った。同時に駆け寄った静が影
の背を打ち、影の男は意識を失って崩れた。
 静は携帯電話で警察を呼びだし、事情を語った。そして警察が来る前に鈴木へも変質者を押さ
えたことを報告した。
 パトカーが到着し、警察車輌が何台か続いて、降りた係員が指示によって写真を撮り、ナイフ
を回収した。男はぐったりしたままパトカーで運ばれていった。
 斉藤静と小松崎恵もつくば中署まで刑事に同行し、簡単な事情聴取が行われた。
 静は恵を婚約者といい、一足遅れて後を追っているときの出来事と語り、一方的な衝撃で犯人
とは面識がないといった。
 担当者が送りましょうかといってくれたのを断り、二人は署の玄関を出て大通りから横道へ入
り、寿司屋の暖簾を潜った。もう客少なくなった店の片隅で、二人はひそかにビールで乾杯した
。空腹に運ばれた寿司は美味しかった。
 仕事を成し遂げた充実感が、二人を幸福な気持にさせた。
 「泊まってもいいかい」と静がいうと、
 「いっぱい愛して」と恵がささやいた。
 店を出ると自然に静は恵の肩を抱いた。通り魔によって家族を失った悲しみからようやく遠ざ
かり、新しい希望がみえてきた二人の姿がそこにあった。
 恵のアパートの階段をいつものように音をたてずみ昇り、部屋に入った二人は汗ばんでいた。
 「拭っきこしようか」静は恵の耳元で囁くと「うん」と恵は赤くなってうなずく。
 二人はそれぞれの身体を熱目の蒸しタオルで拭き合った。誰にも見られない、そしてなにも身
につけない自由さが二人を大胆にした。
 静は恵の乳房を念入りになん度も拭いた。拭く度に乳房は漲り、乳頭は尖った。恵は静の男の
部分を丁寧になん度も拭いたので鋼棒のようになり、静は
 「あまり過ぎるとはじけてしまうよ」とわらった。
 長いキスのあと、静は恵の耳に唇をつけて
 「恵を喰べるとすると、今夜は耳からにしようかな」といって舌を耳の穴に入れた。
 恵は快感でゾーとなり、うめいた。静は耳たぶを噛み、反対側の耳へも儀式を行った。
 首筋からうなじへと唇が移り、背中を一気に腰まで下がり、あとは背中のいたる処が唇でつま
まれた。
 恵は夢のような快感をあじわい、身体が全体燃えたぎった。
 「ほしいの」恵が囁き、二人は重なった。
 充実した喜びの時が過ぎてウトウトし、恵が静の腕の中で恥ずかし気に、
 「神様って、ときには悲しみも下さるけどこんな幸せも下さるのね。女に生まれてよかったわ
、あなたは……」
 「僕も男に生まれて、恵のような天使と知り合えて幸せだよ。でも不思議なだなあ、僕は恵は
強いこわい女性のように思えて、ペアを組まされたときは正直ガッカリしたんだ」
 「私はすべての男性が通り魔の悲劇からは憎しみの対象だったわ。だから、静のこともつまら
ない男と思っていたの。それが、それが……静ったら、通り魔を追い駆けないで、私のことを心
配してくれたでしょ。あのとき、静の優しさを知ったの。通り魔に握られた乳の記憶を消してく
れるのはこの人しかいないと−」
 「そうなんだ。有り難う、恵。僕は君を幸せにするために一生懸命努力することを誓うよ」
 もう明け方だった。静はそのまま一睡もしないで新聞配達に出ていった。



 筑波整体専門学校は静かであった。初回は多かった学生も、今回は4名でしかなかった。
もっとも初回は数年分の通り魔事件の被害家族から選んだもので、去年から今年でいえば十件ぐ
らいの発生件数であった。
 飛鳥りんは校長室のソファに腰を落とし、新聞の地方版で小さく報じられた「民間人による変
質者逮捕のお手柄」の記事を読んでいた。実名では載らないが報告のあった斉藤静と小松崎恵の
筑波組のペアに違いなかった。
 今日の夕方6時から二人と会食し、労をねぎらうことになっていた。鈴木、竹森もその時間に
は小さな料亭に来ることになっていて、りんは楽しみにしていた。在校の学生4名が警察OBの
講義を受けている声が聞こえる。
 りんは愛する息子の死と、苦楽を共にしてきた夫の急死のショックから、ようやく立ち直ろう
としていた。
 あの眼前が真の闇となった息子の通り魔刺殺事件、そしてその心労もあって夫が急死した地獄
の日々。鈴木秀利の励ましがなければ夫の跡を追ったに違いないあの頃も、今はどうやら過去と
なりつつあった。
 しかし、りんは決して忘れない。通り魔は断じて許すことができない。息子の墓前で復讐は誓
ってある。筑波組のペアが、ささやかではあっても一矢を酬いてくれたことが嬉しい。この嬉し
いという気持になったのは何年振りであろうかと、りんは夕方近くまで新聞を繰り返し読んでい
た。 
 鈴木と竹森が乗ったタクシーが学校からりんを拾って料亭に着いた6時5分前に、筑波組の二
人は自転車で10分前に着いたという。
 早速ビールで乾杯し、二人の活躍を三人が祝った。卒業のとき、小松崎恵とペアを組まされて
哀しそうな顔をした斉藤静が、ちらっと恵を見る目が輝いているのをりんをはじめ皆が理解した。
 料理が実に美味しく、日本酒が運ばれて宴席は一層盛り上がった。
 恵はりんに、
 「このようなお席を催して頂きまして有り難うございました」と丁寧に挨拶をした。
 「お礼なんて良いのよ。お手柄が嬉しかったから集まって貰ったけど、斉藤さんとは仲良くや
っているんでしょう」
 「はい」と答えて恵は赤くなった。
 「そう。それがなによりだわ。もし相談したいことがあったら遠慮なくいって下さい。いつで
も待っていますからね」
 「有り難うございます」恵は近いうちに斉藤静とのことを話さなければならないときが来るよ
うな気がした。
 斉藤の失敗談は鈴木と竹森を笑わせた。
 「友達と逢っていて、礫をとりに帰る時間がなくなったのです。だから夫婦並木の根元に轉っ
ていた砕石を持ったのですが、角ばっていて、あわてるとポケットから出なくて、かなり離れて
から打ちましたため、肩に当たっただけで逃げられてしまいました。大失敗で小松崎さんに謝り
ました。」
 「それでも君は当てたから大したものだ。角のある石はまっすぐ飛ばないのだ。瀬戸内海の一
部の漁師は鳥まで打つが、これは飛ぶ方向の予測がむずかしい」
 「竹森先生、どうして瀬戸内海の漁師が鹿島古術を知っているのですか」
 「私もよくは知らないよ。しかしこう聞いたことはある。鹿島事触れの一人が海へ落ち小島に
泳ぎ着いて、石で鳥を落として暮らしているのを見た漁師が魚をやり、礫打ちを教わったらしい
と。四国の松山の沖に浮かぶ島には、事触れの踊った鹿島踊りが残っているので、まんざら嘘で
はないらしい。ね」
 「先生はどなたから教わったのですか」
 「私の家も瀬戸内海の漁師でね。これは代々父親から教わったものらしい。体術などは大分違
う武術からも入って、鹿島の体術とも違うのではないかな。鹿島からはいくつもの流派が生まれ
ているがね」
 「私が警視庁に在職していた頃は、正月前後には各警察署の猛者共が鹿島神宮に詣でて祈願を
していましたね。剣道も柔道も一緒でオスッ、オスッなんて挨拶していましたし、今でも続いて
いるでしょう。また6月には多くの古武道が集まるとか」
 「たしかに、鹿島は武道のメッカというべき時代があったようで、江戸時代に入って衰えたの
は、幕府の政策でもあったらしい」
 楽しい時が過ぎて、やがてりんは鈴木、竹森と呼んだタクシーに乗り込んだ。静と恵は自然に
並んで見送った。
 タクシーの中ではりんが、
 「あの二人は通り魔の悲劇をどうやら乗り越えたらしいと思いませんか」といった。
 「いい感じでしたね。小松崎の変わり方は見事なくらいで、そのうち結婚したいといってくる
ではありませんか」
 「おそらく。しかしその前に通り魔を押さえたいと思っているでしょう。あの二人は行動を起
こしますよ」と竹森は予言した。



 竹森の予言のように、斉藤静と小松崎恵は次の行動に移っていった。
 鈴木に計画のあらましが手紙で届いた。それによると、鈴木が通り魔は何度でも行動を起こす
ということから、前に襲われてとり逃がした場所を重点的にパトロールする。小さな、しかし光
量の強い懐中電灯を持ち、逃げられた場合でも顔を確認しておく。
 二人で追えるように、恵はキュロットスカートを履く。恵の髪型を変えて、前回の印象を消す
などと書かれてあった。
 鈴木からは「了解」と充分に気をつけて実行するようにのメールが送られた。
 
 斉藤静と小松崎恵は、前回襲撃された場所へ昼過ぎに自転車行った。日曜日で恵が弁当屋が休
みなのを利用しての下見だった。明るい幹線道路は車も多く、二本づつ並んで植えられた並木も
大きくなって、ヨーロッパ風の感じがあった。
 「ここだったわ」自転車を止めて恵がふり返った。
 「うん。その左からきている小道から出てきたような気がするな」
 あまり人影はない。五十メートル手前までは賑やかで店舗も多いのだが、急に淋しくなる。少
し先には道路の向い側に駐車場と会社があった。
 「もう少し行ってみようか」
 二人は自転車に乗り歩道を走った。また左側から小道があらわれた。この幹線道路ができない
頃からあった農道らしく、右の向かい側にも細い道があった。
 「入ってみようか」と静がさそい、細い道をゆっくりと自転車を進ませた。
 雑木林があり、やや広い道と交差している先にいくつかアパートがあり、民家があった。左へ
曲がっていくと再び幹線道路に戻った。
 「あっ、ここは襲われた場所じゃないか」
 「そうよ、たしかにここだわ」
 「夜、人通りのない、しかも曇っていて暗い夜。女の一人歩きを襲うなんて最低だな。恵にオ
トリ役をやらせたくないが、今度は僕も覚悟を決めて君を護るよ」
 「安心しているって」恵は思い切り明るい顔を静に見せた。
 それから三日。どんよりと曇った夜、この道を歩く若い女性の姿があった。しかし三日は空振
りに終わった。四日目、今にも一雨来そうな空模様に加え、湿度は温度まで押し上げて、寝つか
れないような夜となった。
 「今夜あたり出るかもね」と恵はいった。
 「うん。気をつけよう。暗いからなにかが起こったら必ず声に出すこと。それまでは懐中電灯
は点けないからね」
 「わかった。では」二人は唇を軽くあわせ恵は先行した。
 もう静の気配はない。恵は小さく「夏は来ぬ」をハミングした。静への合図でもあり、通り魔
への女性が来るとの信号でもあった。
 左からの道が、かすかに見えてきた。と、突然光が起こり自転車が左の道からあらわれ恵の脇
を疾走しようとした。振り返った恵に、ライトの光の中に白い刃が光るのが見えた。
 「なにするの!」恵は男の乗る自転車を押し倒した。乗っていた男の影が倒れ、ライトが消え、
闇にすべてが包まれた。だがそれは一瞬であって強い光が闇の中で立ち上がる黒づくめの男を照
らした。
 「チクショウ」逃げだす男の背を静の懐中電灯は照らし、礫が男の背に命中した。
男は倒れた。近寄った静は鳩尾に拳を入れ、男は気を失った。
 「大丈夫かい」静が恵にたずねた。
 「うん、大丈夫。でも自転車を倒すとき右手を少しすりむいたみたい」
 携帯で警察へ連絡した。なににも手を触れず、二人は時折通る車の光から身を隠し、パトカー
を待った。先行したパトカーの係員達に事情を説明しているうちに、着いた車から降りて近づい
た一人が、
 「あ、君たちか。よく夜道を懲りずに歩いているね」といった。
 嚢の中から大型のナイフが発見され、男は殺人未遂の容疑者として緊急逮捕されたが目覚めの
ないまま運ばれた。
 静と恵も係員の車で再びつくば中署に同行した。
 翌日。男の指紋が東京での強盗殺人の犯人の残した指紋と一致し、つくば中署は色めきたった。
 一騒動が一段落した後、斉藤静と小松崎恵は自転車を列ねて筑波整体専門学校を訪れ、飛鳥り
んの前で、
 「私たち結婚したいのですが、許して頂けますか」といった。
 「有り難う、斉藤君、恵さん。どうぞ幸せになって下さい。お陰で私も息子に復讐を報告する
ことができました。もう、あなた方を縛るものはなにもありませんよ」
 二人はやがて小さなマンションに引っ越した。りんのささやかな贈り物だった。

 一年後のある日、
 「あ、忘れていた」と静がいった。
 「なにを忘れたの」と恵が首をかしげた。
 「あのあと、礫をひろうのをさ」
 「警察官になる人はもう礫を打たなくてもいいと思うけど」
 「それもそうだな」
 静は鈴木秀利を慕って警察官の試験を受けて合格したのだ。   
 汀  安 衛 『カンパズレ』サンプル小説からの続編1 
四 カンパズレ
 江戸から帰った玄人は、突然の小春日和りと無事に済んだ年賀の旅の疲れと、昼食の腹具合で
縁側でうたた寝をしてしまった。 正月も早十一日になる。
 重右衛門は【夢の中で】旗本で三、000石取りの御書院番岩瀬市兵衛役宅での接待に口元が、
笑みを浮かべていいる。今度は顔が変った。
呻き、怒る。
 「馬鹿な−殺した−」寝言がでた。
内容は、7年前の霜水寺住職の乱行の悪夢を見てうなされているようだ。
 [若衆が息せき切って飛び込んできた」
 「名主様−やってしまっただ−」
 「どうした−落ち着け−」
 夢で叫ぶ若衆は、
 「御住寺を池に投げ込んでしまっただ−」
 「どうしてだ−」
 重右衛門が
 「宝物と什器を売っ払らってしまっただ−」
『沖き上がり』の酒の勢いで4人の若衆が寺の西側にある池に投げ込み、水死させてしまったの
である。以前から住職の乱行には困ってはいたが、殺してしまったのではただではでは済まない。
矢立を取り書状をしたためて江戸表に早飛脚を立て事の次第を書き記し御沙汰お願します。と付
記した。返書がとどいた。返書には
 「酒に酔い、謝って池に落ちたのだな」
 と念を押した文字が書かれていた。
 「助かった−。科人をださずに済んだ−」
御用人の機転の計らいであった。
 うつらうつらした夢の中にいる重右衛門、その時、
 「旦那さま−− クジラだ− クジラ−」
 下男の松吉が息せき切って飛び込んで来た。
うたた寝をしていた重右衛門も松吉の頭が割れる程の大声に、何事と飛び起きた。
 「なに−クジラだ−」
 「へ− クジラですだ−」
 オ−ム返しの松吉の声が震えている。
 正月十一日の八つ前、タカボリの鐘が乱打され、村中は蜂の巣を突いた様な大騒ぎになり浮き
足だっていた。
 その頃、天空では切れ切れの黒雲が飛び始ていたが風は無く気が付く人は誰もいない。境田、
青塚、荒井村の鐘も乱打され切れ切れに長く、短く聞こえてきた。
 「カ−ン、カ−ン、カ−ン」
 北から、南から聞こへて来くる。鐘が浮かれている。重右衛門は砂に足を取られながらタカボ
リに息を切らして駆け上がり、海を見た。見渡せば二町程の沖合に五頭のクジラがゆったりと遊
泳していた。時折小さな潮を吹き上げている。浜には、すでに大勢の人が集り出船の支度をして
いる。すでにバンが並べられていた。
 重右衛門の隣に居る老漁夫が話かける様に
 「雲がな−」
 と、空を見上げてポツリと呟やいた。シワシワの顔は憂いを含み、小造りの体は震えている。
苦渋に満ちた顔面は蒼白である。額のシワが憂いている。
 重右衛門はクジラに気を盗られ、老魚夫の顔を観る、読む余裕がなかった。
 頭の中はクジラ、クジラで空や風を見る気がない。気がしなかった。小判が海にいた。
 大きさにもよるが、沖で生きたクジラを一頭取れば、村中が半年暮らせる時代である。捨てる
ものがない魚である。
 『よそに、となりに負けるな−』
 と、腹の中で言う。
漁師の気質は荒く、強い。北隣の青塚、荒井、津賀浜村の船の周りにも大勢の船方や女衆がうご
めき、出船の準備をしている。
 村の船は、浜に押し出し、みぎわに達した。一人、二人と飛び乗り竿を持ち左右に別れ、竿を
さす。船は浮かびはじめミヨシで張る竿はしなる。
 沖合は声をカラシて叫ぶ。波に真直に船を立て直し維持する。波一つで竿の差方が変る。
 沖合が飛び乗り、「ナマ」を読み始めた。船頭も櫓を手にし沖合の合図を待つ。
 沖合の手が上がり声が出た。
 「なぎだ− おせ− 押せ−」
沖合が短く怒鳴る。号令である。船頭もどなりそれが命と飯を賭ける漁師の姿である。
 「九兵エ衛丸に負けるな−」
沖合の威勢の良い声がとび、水夫の掛け声も弾み、櫓がきしむ。三艘が競って漕ぎ出し、六丁櫓
で二人漕ぎ、船足は早い。

 「一番モリだ−、それ−−いけ−」
船頭の鼻息は荒い。小判が海にいる。五頭も。
 「おせ− おせ− なぎだ−なぎ−」
タカボリでは女衆と子供が船の動きに夢中で身体が波と船と船頭に一体に成り無意識に動く。子
供を背負った女衆、老婆も声をからしクジラと漁船暗示に掛かった様で、目はクジラと船をたが
いに追っている。『夢中』で何もない。クジラだけだ。
 海は穏やかなよそおいで招いていた。雲は
、矢の様に速さで【海原】に飛ぶが、風はないでいた。それは、風向きが変わろうとする一時の
間であった。
 重右衛門は、まだ老漁夫の言葉が耳に頭に入らない。気にもかける余裕がない。
 クジラに魂を取られたか、正月気分の残る重右衛門には海と村と青塚、荒井、津賀浜の船しか
見へない。老漁夫を除き、誰もがクジラに浮かれてしまっていた。捕れた時、あの祭りの様な生
活が頭に、目に体に焼き付く。
 見ればすでに丑寅の海、常陸の山並みは墨を流した様に漆黒の雲に覆われ、僅かに雲間からの
淡い日差しは、シケを呼ぶ『イキ』をつれていた。青塚、荒井、津賀村の四隻もすでに二番瀬を
越えた。
 南隣の境田の船は、バンは並べられているが、動きがない。船頭らが10人程見えるだけで胴
の間に網を乗せたままでいる。
 三番瀬を越えた村の船は、クジラに向かって一直線に突き進んでいた。三艘の船は六丁櫓がう
なる程しなり「ギィ−ギイ−」とタカボリに音が聞える程である。船頭の気合いが乗っている。
小判が泳いでいると見えた。
「ないだな−」

老漁夫が憂いをこめ、舌を舐めながらつぶやく、焦った老漁夫が『もう間に合わないか−』と、
一言。
 事の重大さに舌が乾き、体が震えていが、まだ重右衛門にはつぶやく意味が判らない。伝わら
ない。クジラに気を盗られ老漁夫の憂いに気がつかない。青塚、荒井、津賀村船もクジラに近づ
く。
 鹿島浦の船は長い『ミヨシ』が弱く反る独特の船形を持つ。ミヨシの頭は黒く染られたアゲが
在りフサが下がる。その船が近ずくのを待つように、クジラはゆったりと、そして悠然と、船を
招くように、そして誘うように泳いでいる。時折潮を小さく上げながら。各村の七隻は、クジラ
との距離を半町程に追っていた。捕獲の体制に入りつつあり、モリを持つ者も見えた。それ程、
タカボリから近く見えた。時おり寄り添う様に遊ぶ。
 その時、船を待つようにそして、招く様に沖に引込む様にゆっくりと泳ぎだした。
 クジラにつられて体が反応し、追うように角折、青塚、荒井、津賀村の七隻の船は漕ぎ、包囲
の体制に入ろうとする。モリをもつ者も見へ、船もタカボリもまだ浮かれている。
 海はすでに『ソバダッテ』いた。風が冷たくなり、僅かに変った。まだ誰もが風の変化に気が
つかない。目も心も体までもクジラに盗られていた。
 「名主様−カンパズレだ−カンパズレ−」
突然タカボリの一番高い所に居た老漁夫が口が裂けんばかりの声で叫んだ。
 いや怒鳴った。
 北 川  吏 
来月号に出します。
 星  聖 夜 『忘憂珍文館』−短編評論集−
<復活を観て>

トルストイの「アンナカレーニア」「戦争と平和」などの他の小説と比べると「復活」は、出来
がもうひとつだという。観客は女性が80%だったが、このメロドマを見てハンカチをぐしょぐし
ょにぬらしている人はいなかった。文豪の小説の映像化ということで話題にはなり、仕掛けを始
めすごい映画だと思う。
ロシアの宮殿内の装飾品に目が奪われた。他のヨーロッパのように、かべや、天井に、宗教画は
かかれていなかった。セーブル焼きというのだろうか、白い瀬戸物の壁が目立った。あるいは、
ピーナスが肩からつぼで水をかけている像や金色の天使が円柱の上に乗っているのが見えた。

ネフリュードフはかつて、立身出世のためにカチューシャをすてた。そのカチューシャは、今で
は売春婦に身を落としていた。ネフリュードフは金網越しに対面し、自分も彼女についてシベリ
アへいこうとする。だがしかし、カチューシャは、政治犯のシモンソンと結婚してしまう。

ネフリュードは、愛でというよりも、過去の罪悪感から、カチューシャに求婚するのだが彼女は
断ってしまう。
何も好きだというのだから求愛を受け止め、結婚してしまえばいいのだと思ってしまうのだが、
過去の愛を捨て切れずにいる男が悲しいし、女もまた悲しい。三角関係の難しいところだ。

<上野精養軒に行って>

モダンな造り。昔風の木造ならもっとムードがあろうに。
ハヤシライスを食べた。私は明治生まれでも大正生まれでもないから昔のことは知らない。その
私は、今食べると未知の味がした。新鮮な味である。ベースになっているトマトソースが、伝統
のソースとはこういうものか、と思わせ、タマネギと肉とが絡み合い、絶妙な舌触りである。

<今は、法律と現実のずれを調整するとき>

いうまでもないが、日本は法治国家で、憲法、法律、命令、規則、自冶法、条約がある。
憲法はすべての法律の基礎で主権者である国民が制定する。
法律は、立法府である国会が制定する。
命令は、行政官庁が制定する。
規則は、議院、最高裁判所が制定する。
自冶法は、地方公共団体が制定する。
条約は、国と国とが制定する。

いまは、長引く不況を打破するため、法律を見直す総点検をするときである。
まず、法律を立てたり改正するための国会について基礎的なことをおさらいしよう。

憲法

国会に関する条文は、第四十一条から第六十四条まで、計二十四カ条あり、国会をこう定義づけ
ている。「国会は、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である。」
景気を回復させるにはどうしたらよいかも、この国会の審議議決にかかっているといっていいだ
ろう。税金をどうするかなどもそうである。
しかし、この税金だがマキャベリは、民衆は自分の財産が脅かされるのを極端に嫌がる。そうし
た政治をおこなう為政者には強く反発する、といっている。だから増税するときは、これこれこ
うで、財政が逼迫していて困っている、ついては協力してもらえないかと、納得のいく説明をす
べきだ。

 国の予算は、毎年、衆議院と参議院の議決によって決められる。決められた予算による政策は、
内閣によって実施され、その結末について、また国会で承認を得ている。つまり予算も決算も、
すべて国会が決めているのだ。内閣が窮地におちいることもある。野党の追及で、黒い霧などが
発生したものだった。

まず、予算の財源の調達だが、大きく分けて、租税収入、課徴金、専売益金、事業収入がある。
このうち租税収入が最も多い。所得税や法人税などの直接税と、ガソリン税などの間接税である。

 次に支出だが、第八十五条から第八十九条まで、ある。
 1.国費の支出には、国会の議決がいる。
 2.毎年の予算は国会の審議と議決を経なければならない。
 3.予測しがたい支出のための予備費を設けること。

 昭和25年に誕生した住宅金融公庫法から昭和49年の国土庁設置法まで、今の日本の借金 700兆
円の半分は、田中角栄氏が作ったもので、現実にそぐわなくなってきている。田中角栄氏が作っ
た法律群は別途添付しておく。

年数が経ることによって、制定法は、現実とそぐわなくなってくる。このズレを国会で審議しな
くてはならない。
1.立法的調整
 @ 法改正
 A 特別法の制定
2. 理論的調整
 @ 解釈の操作
 A 適用の操作
 早 川 眠 子(ゲスト)『ディズニーランド遊覧』
私は茨城県鹿嶋市に住む主婦(30才)。
最近、ディズニーランドへ行ってきましたので体験を記しておきます。

スターツアーズ

格納庫からローリーが横切り、緊急ストップ。
衝撃があり前のめりになる。
上昇するとスーッという感じ。

出口から出ると、次元を超えワープ
星々が帯となってをり去る。

氷の星にぶつかる。強い衝撃。

大艦隊がやってくる。敵は前後左右に飛び交う。
基地に突入する。白い管制塔や軍需設備の狭い間を超高速で飛ぶ。

狭いが急ハンドルでかわす。体が左右に振れ、強い衝撃。

ミクロアドベンチャー
発明大賞の授与式。
犬が身ぶるいするとしぶきが実際にとんでくる。
ねずみが足元を去ると何か足元にふれる。
レーザー光線で人が小さくなる。
犬が巨大化する。

ゴーステッドマンション
オバケに関する本が棚にギッシリ。
ろうそくが動く。
キャーというさけび声。
ダンスパーティが行わている。
透きとおった紳士淑女がえんび服とカクテルドレスでダンスをしている。
居間でおどっている。

胸像が動く。
額ぶちの肖像画がガイコツになる。

優雅に踊るのが幻想的。
ドレスがひらひらゆれる。

スペースマウンテン
左右にゆれる。
星がキラめいていたが、それは昇るときだけ。
身体が絞り出されそうになる。

ミートザワールド
  福沢 諭吉  「本当の文明関心は………」
  坂本 竜馬  「オレの青春をかけた日本の夜明けは………」
  伊藤 博文  「これからの政治は………」

タイムマシン
HGウェルズ「タイム旅行なんて信じられない」
マシンにさわったので一緒につれていかれる。
パリ、ドイツ、スイスなど。
 鹿 島 文 男(ゲスト)
 大 森  純(ゲスト)『わが対戦の覚書』<その1>


私は茨城県の大洋村に住む83才の老人だが、50年以上も前の第2次世界大戦の体験と友人た
ちから聞いた大戦の思い出から、私なりの大戦のもようを再現しよう。

敵戦闘機から魚雷発射、海中を猛スビードで進み艦の横腹に衝突する。
オレンジ色の柱が立ち、もうもうたる黒煙。
炎が巨大な火の玉となってふくれあがる。管制塔が横倒しになり、中にいた人は放り出される。
爆破するたびに人々は吹き飛ばされ、海へ投げ出される。
艦上では機銃を撃つが敵の射撃を受け、ビシッビシッと弾が炸裂し、人々は背を撃ち抜かれて倒
れる。
沈没する艦は横倒しとなり、甲板が直角になり、物につかまりとどまろうとする人々を海へ滑り
落とす。
「オレは泳げないんだ!!」
艦の中にいる人々はドアから水が流れ込みおぼれて死ぬ。脱出口を求めてさがしまわっても水は
頭を越してしまう。
海で立ち泳ぎしている人々にも容赦なく35mm砲が撃ち込まれ水を赤くそめる。
飛行機は散歩する母子、野球する少年。
写真をとる人々の頭上を爆音を響かせて飛ぶ。
1時間後艦隊は黒煙をあげ、チロチロと炎を燃やしている。

B29が都市を軍需工場を、軍需基地を爆弾で巨大な炎をまきおこさせ、黒煙でおおう。  
敵は暗号を飛び交わさせ、「なにかたくらんでいるな」と思う。

朝焼けの空へ飛行機は飛び立つ。
下に雲海があり、黄金色をした雲がオレンジに変わるのを見る。そこへ1点となりすい込まれて
いく。
機を方向転換するたび恐がっておもしろがって「キャーキャー」いう。

うしろに敵機バク転をし、うしろにつき、撃ち落とすが、生き残りに撃たれて海へ。
コクピットの風防ガラスがあかないのでピストルで撃ち破ろうとするがダメ。
しかし、海中で風防のガラスを開け、脱出。海底から水面へと浮かびあがり、漁船に助けてもら
う。
撃たれた敵機は黒煙をあげて艦上の設備にたたきつけられ、爆発し設備とともに炎上する。